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広島高等裁判所 昭和31年(ネ)22号 判決 1957年12月20日

第一審原告(反訴第一審被告) 宮野ツチ

右代理人弁護士 神田静雄

同 徳永平次

第一審被告(反訴第一審原告) 植本敏男

第一審被告(反訴第一審原告) 植本政子

右両名代理人弁護士 木村信一

主文

第一審原告の控訴を棄却する。

原判決中第一審原告勝訴部分を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

第一審原告(反訴第一審被告)は第一審被告両名(反訴第一審原告両名)に対し別紙第一、二目録記載の不動産につき山口地方法務局下関支局受付昭和二十六年七月十一日第五七四三号を以てなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をなせ。

訴訟費用は本訴及び反訴につき第一、二審共第一審原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

第一審原告が第一審被告敏男に対し昭和二十六年七月十一日金五十万円を弁済期を同年十二月三十一日と定めて貸与し、同日第一審被告政子が右敏男の債務につき連帯保証をなし、昭和二十七年四月末日迄の利息並びに遅延損害金の支払がなされていること、第一審被告敏男が昭和二十八年十月八日第一審原告に対し右借受金元金五十万円及び之に対する昭和二十七年五月一日より昭和二十八年十月八日までの日歩二銭五厘の割合による損害金として金六万円並びに本件債務の担保たる別紙第一、二目録記載の抵当不動産につきなされた競売事件の執行費用として金三万円の合計金五十九万円を第一審原告居住地を管轄する福岡地方法務局小倉支局に弁済供託したが、第一審原告は昭和三十一年二月十三日該供託金五十九万円及び之に対する供託利息金三万千八百六十円を同供託局より受領したことは当事者間に争がない。

而して第一審原告は右供託金を受領して本件債権の一部弁済に充当したから残債権を請求するもので右受領は供託原因を認めたものではないと主張し、第一審被告等は右供託金受領は供託原因の通り本件元金及び延滞損害金として受諾する意思を表示したもので本件債権は消滅に帰したと抗争しているので先づ右供託金受領の効果について考えてみるに、およそ債権者が債務者より供託書の交付を受け供託金額を受領した場合は債権者において供託所に対し債務者のなした供託を受諾する意思を表示したものと認められるから同時に債務者は供託金の取戻権を喪失するに至り、従つて債権者も亦該表意に拘束され、爾後供託原因と異る趣旨で受領した等供託原因に反する主張をなし得ないものと解するのが相当である。そうでないと債務者は民法第四九六条に基く取戻の権利を失いながら一方において自己の主張した供託原因を維持し得ないような不都合な結果となるからである。

然らば本件においては第一審原告が昭和三十一年二月十三日該供託金五十九万円及び之に対する供託利息金三万千八百六十円を供託局より受領した日に第一審被告等に対する本件元利金債権は弁済を受け消滅に帰したことになるから第一審原告の本訴請求は爾余の争点につき判断する迄もなく失当であることが明白である。

而して第一審原告の本件債権につき第一審被告敏男所有の別紙第一目録記載の物件、第一審被告政子所有の別紙第二目録記載の物件につき第一審被告等主張のような抵当権設定登記がなされていることは当事者間に争がないが、前記認定のように右被担保債権が消滅している以上右抵当権も失効していることは謂うまでもないから第一審被告等(第一審反訴原告等)の該抵当権設定登記の抹消登記手続を求める反訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

よつて右と異る趣旨にでて第一審原告の請求の一部を認容し第一審被告等の反訴請求を棄却した原判決は取消を免れないから民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第八九条を適用して主文のように判決した。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 松本冬樹)

<以下省略>

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